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金沢地方裁判所 昭和42年(ワ)86号 判決 1968年10月23日

原告

伊藤勝次

ほか一名

被告

輪島政一

ほか一名

主文

被告輪島政一は原告伊藤勝次に対し金一、四七五、二三二円、原告伊藤みどりに対し金二、七四八、一五七円および右各金員に対する昭和四二年三月二三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告輪島政一に対するその余の請求および被告角田昇五郎に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告伊藤勝次と被告輪島政一との間に生じたものはこれを三分してその一を同原告の、その余を同被告の各負担、原告伊藤みどりと被告輪島政一との間に生じたものは同被告の負担、原告らと被告角田昇五郎との間に生じたものは原告の負担とする。

この判決の第一項は、原告伊藤勝次において金三〇〇、〇〇〇円原告伊藤みどりにおいて金五五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告らは連帯して原告らに対し各金三〇〇万円およびこれに対する昭和四二年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として

「一、被告輪島政一は昭和四一年九月二六日午後一〇時一〇分頃普通乗用自動車ダツトサンブルーバードを運転して金沢市北安江町二〇五番地先附近路上を進行中、進路前方を歩行していた訴外伊藤明男に自動車前部を激突させて転倒せしめ、同人に対し頭蓋骨複雑骨折、頭蓋内出血等の傷害を負わせ、よつて翌二七日午後〇時四〇分右傷害に基づく脳挫傷により同人を死亡させたものである。

二、およそ自動車の運転に従事する者は、常に前方および左右を注視し進路の交通の安全を確認しながら進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を負担しているにもかかわらず、当時被告輪島は飲酒の影響もあつて右注意義務を怠り、前方および左右に対する安全を確認しないまま漫然時速約四〇キロメートルの速度で進行を継続した過失により、折から車の進路前方を歩行していた前記被害者に気付かず、その距離約七メートルに接近してようやく同人を認めたがもはや制動措置を講ずるいとまもなく同人に激突し、前記結果を生ぜしめたものである。

三、被告角田昇五郎は前記事故車の所有者であるところ、被告輪島に対し右自動車の売却方を依頼して同被告にこれを保管させていたものである。

四、従つて被告輪島および被告角田は共に右事故車のいわゆる運行供用者として自動車損害賠償補障法(以下自賠法という。)第三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

五、かりに被告輪島が自賠法第三条の運行供用者にあたらないとしても、同被告は前記過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

六、被害者伊藤明男について生じた損害は次のとおりである。同人は大工職を業とし、事故当時満二三歳一一ケ月であり、才田建設株式会社に勤務していたものである。同人の右会社における昭和四一年三月から死亡時までの平均賃金は月額五七、五〇〇円であるから、同人の稼働可能年数を満六〇歳までの三六年一ケ月、その間に要する生活費を一ケ月一五、〇〇〇円としてホフマン式計算により同人の得べかりし利益の喪失額を算出すると金一〇、四四一、四三〇円となり、従つて同人は被告らに対し右金額の損害賠償請求権を取得した。

七、原告らは右伊藤明男の相続人であり、同人が取得した右損害賠償請求権を各二分の一宛相続した。

八、原告らはまた伊藤明男の実父母として、被告らに対し個有の慰藉料請求権を有するものであり、その金額は原告ら各金五〇万円宛が相当である。

九、よつて原告らは各々被告らに対し、伊藤明男から相続した同人の得べかりし利益の喪失による損害金の内金として二五〇万円および原告らに個有の慰藉料として金五〇万円、合計三〇〇万円および右各金員に対する履行期の後である昭和四二年三月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べ、被告輪島の抗弁に対する答弁として、

「同被告主張の、原告伊藤勝次が政府保障事業から金一、二七二、九二五円の支払を受けた事実は認める。」

と述べ、被告角田の陳述に対し、

「同被告がはじめ加害車両は自己の所有に属することを認めながら、後に右陳述を撤回したことは、自白の撤回であるから異議がある。」

と述べた。

被告輪島訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として

「一、請求原因一、の事実は認める。しかしながら、被告者伊藤明男は当夜附近のおでん屋で相当量飲酒し、酩酊して道路中央を歩行していたものである。本件道路は車道中央にコンクリート舗装部分があり、その外側にアスフアルト舗装部分、更にその外側に歩道のある広い道路であり、同人が歩道を歩いていれば本件事故は起きなかつたものである。従つて本件事故の発生については同人にも重大な過失がある。

二、得べかりし利益の喪失に関する原告主張事実はこれを争う。即ち、伊藤明男は当時才田建設株式会社に勤務していたものでなく、原告伊藤勝次の仕事を手伝つていたものである。そしてその大工工料は一日金二、二〇〇円であつた。

三、原告らが伊藤明男の父母であることは認める。

四、原告伊藤勝次は自賠法に基づく政府保障事業から金一、二七二、九二五円の支払を受けているから、右金額は損益相殺により同原告の損害額から控除されるべきものである。

五、被告輪島が被告角田から本件事故車の保管を依頼されていたことは否認する。本件事故車は被告輪島が訴外角田外久蔵から買受けて所有し、かつ占有していたものである。」

と述べた。

被告角田は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として

「一、請求原因一、の事実は認めるが事故原因の詳細および損害額については知らない。

二、原告らが被害者伊藤明男の実父母であることは認める。

三、本件事故車が被告角田の所有であることは認めるが、被告輪島に対しては、右自動車の売却方を依頼したのではなく、その修理を依頼して保管させていたのであり、同被告に右自動車を使用することを許容したことはない。」

と述べたが、後に右陳述の三、を撤回し

「本件事故車は被告角田の所有ではなく、もと同被告の兄角田外久蔵の所有であつたものを同人が被告輪島に売渡したものである。」

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

一、被告輪島が運転する普通乗用自動車が昭和四一年九月二六日午後一〇時一〇分頃金沢市北安江町二〇五番地先附近路上において、歩行中の訴外伊藤明男に激突し、同人に対し重傷を負わせ、よつて翌二七日午後〇時四〇分同人を死亡するに至らしめたことは当事者間に争いがない。

二、運行供用者責任

原告らは、被告両名が共に本件事故車につき自賠法第三条のいわゆる運行供用者にあたると主張するのでこの点について判断する。

(一)  被告輪島について

〔証拠略〕によれば、被告輪島は本件事故発生の一年程前に被告角田から本件自動車の売却の斡旋を頼まれるとともに、買手が見つかるまでの間の本件自動車の保管を託され、以来継続して本件自動車を占有していたところ、たまたまこれを自己の所用のため自ら運転していた際に本件事故を惹起せしめたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、本件自動車の所有権者が誰であるにせよ、本件事故当時本件自動車の運行につき被告輪島が直接的な運行支配および運行利益を有していたことは明白であり、従つて同被告は自賠法第三条の運行供用者として本件事故から生じた原告らの損害を賠償する責任を負わなければならない。

(二)  被告角田について

原告らは本件自動車が被告角田の所有であると主張し、同被告はこれを否認する(被告角田は、はじめ右自動車が自己の所有であることを認めながら、後にこれを撤回したので、原告らはそれが自白の撤回であるとして異議を述べるが、単なる所有権の帰属に関する陳述は法律上の陳述であり任意に撤回し得ると解されるから、右異議は理由がない)。そこでこの点についてみるに、前記甲第一、第四、第五号証記載の被告らの供述は原告らの右主張に副うものであるが、一方これに反する証拠として被告ら各本人尋問の結果が存在するところ、そのいずれを措信すべきかにわかに決し難く、他に本件自動車が被告角田の所有であることを認めるに足りる的確な証拠かない。のみならず、かりに被告角田が本件自動車の所有者であるとしても、前認定のとおり、同被告は被告輪島に対し、かなり長期にわたつて本件自動車の管理をまかせていたこと、右管理は売却斡旋のためのものであり、従つてさしあたり被告角田が右自動車の返還を受けることは予定されていなかつたこと、さらに前掲各証拠により認められるところの、本件自動車が自動車登録原簿に登録されていない自動車であり、従つて法律上はこれを運行の用に供することが禁止されていたこと、被告角田は被告輪島を監督する立場にはなく、被告輪島の自動車修理業の下請人としてむしろ従属的な地位にあつたことなどの事情にてらし、被告角田は本件自動車につき運行支配運行利益ともに有していなかつたというべきである。従つて、被告角田は自賠法第三条の運行供用者に該当せず本件事故による損害賠償責任を負わないものといわなければならない。

三、損害の発生

(一)  伊藤明男の逸失利益

〔証拠略〕によれば、被害者伊藤明男は死亡当時大工であり、通常一日稼働すると二、三〇〇円の賃金を得ていたことが認められる。同人が死亡当時二三歳一一ケ月であつたことは被告輪島において明らかに争わないから自白したものとみなす。そこで通常の大工の年間稼働日数を三〇〇日、収入に対する生活費の割合を五〇%とみて同人の年間純収益を算出すると、金三四五、〇〇〇円となる。第一〇回生命表によれば同人の平均余命は四五・八四年であり、その範囲内で同人はなお三六年間就労可能であつたとみられるから、右期間中の逸失利益の事故時における現価をホフマン式計算法によつて年五分の中間利息を控除して算出すると金六、九九四、七三五円となる。

(二)  過失相殺

〔証拠略〕によれば、伊藤明男は事故当時酩酊して車道を歩行していたことが推認され、この点において同人は自ら生命の安全を譲るための注意義務を充分尽さなかつたといわざるを得ず、従つて過失相殺により同人の損害賠償請求権はその三〇%を減ずるのが相当である。そうすると結局同人は死亡による逸失利益の賠償として、金四、八九六、三一五円の損害賠償請求権を取得したこととなる。

(三)  権利の承継

原告らが伊藤明男の父および母であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば原告らのみが同人の相続人であることが認められるから、原告らは右損害賠償請求権を相続により各二分の一宛、即ち金二、四四八、一五七円宛取得したことになる。

(四)  慰藉料

原告らは被告輪島に対し、伊藤明男の父母として同人の死亡により個有の慰藉料請求権を取得するというべきであるが、その額は原告伊藤勝次本人尋問結果によつて認められるところの同原告の家族構成、前認定の本件事故の態様、〔証拠略〕によつて認められる伊藤明男の受傷の態様等を考慮して、原告ら各三〇〇、〇〇〇円が相当である。

四、原告伊藤勝次が政府の自動車損害賠償保障事業から金一、二七二、九二五円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によると右支払は、逸失利益の賠償および慰藉料に充当されるべき性質のものであることが認められるから、右金額は同原告に対する前記逸夫利益賠償額および慰藉料額から控除されるべきものである。

五、以上みたところにより、被告輪島に対し、原告伊藤勝次は金一、四七五、二三二円、伊藤みどりは金二、七四八、一五七円および右各金員に対する本件不法行為の後である昭和四二年三月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求および被告角田に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 清水信之)

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